おもしろ同人誌紹介 これで村上春樹風文体に「ハルキになる3つの方法」

編集部が気になった一冊を紹介する「おもしろ同人誌紹介」。今回は小説家の村上春樹風の文体を扱った同人誌「ハルキになる3つの方法」をご紹介。

おもしろ同人誌紹介「ハルキになる3つの方法」

ライター : 竹田あきら

ハルキになる3つの方法

ハルキになる3つの方法

同人作家が気になった一冊を紹介する「おもしろ同人誌紹介」。今回紹介するおもしろ同人誌は、同人誌サークル版元ひとり所属の竹田あきらさんが推薦する一冊。小説家の文体を「パロディ」という手法で扱った同人誌「ハルキになる3つの方法」です。

著者の「もひもひ」さん(この同人誌については村上冬樹)は、なぜ小説家・村上春樹氏に目をつけたのか。一冊の同人誌ができるまでと著者流の同人誌活動について聞きました。

村上春樹氏を模写すれば村上春樹っぽい文章が書けるようになる

小説が好きで「自分でも書いてみよう!」とチャレンジする人は少なくはありません。しかし、その中には、小説を執筆するのに重要な要素「文体」に悩み、手が止まってしまう人もいるようです。古今東西の小説家は、オリジナルの文体を持っています。「せっかく小説を書くのだから、自分だけの文体が欲しい。しかし、どうしたら良いのか…」。そんなときは、マネから入ってみるのもひとつの手です。先輩小説家の文体をまねしてみれば、オリジナルの文体を作るきっかけになるかもしれません。「ハルキになる3つの方法」は、日本を代表する作家で、ファンからはハルキと呼ばれる村上春樹氏が持つあの独特な文体をパロディの手法で活用しながら、誰でも村上春樹のような文章を書けるように伝授するというハウツー本なのです。

「ハルキになる3つの方法」とは?

「ハルキになる3つの方法」は、A5サイズ16ページの同人誌です。自宅のプリンターで印刷した紙を2つ折りにして、ステープラーで止めた手作り感あふれる一冊。一般家庭にもある印刷用紙で作られたシンプルな表紙に、通常のコピー本以上の親近感を感じます。

ネタバレになるので、詳しい内容は控えますが、「ハルキになる3つの方法」を少しだけ紹介いたします。

ハルキっぽさがわかる本

「ハルキになる3つの方法」は、全編にわたってハルキっぽい文章とは何かの考察が書かれた同人誌です。本文は、次のような見出しのついた3つの章に分かれています。

「ハルキになる3つの方法」の構成

  • 第一章 ハルキは3パターンしか文を書かない
  • 第二章 圧迫面接必勝法としてのハルキ語会話
  • 第三章 ハルキ的比喩表現単語集

見出しだけでもとても気になりますが、さらに、本文のほかにコラム「村上春樹はいつノーベル賞をとれるのか」と、「ハルキ度チェックシート」というページで構成されています。どのページも、見出しを読むだけで、クスッと笑ってしまう内容です。ハルキっぽく書くとこんな感じでしょうか…。「僕がクスッと笑ったからといって、必ずしもそれがおもしろいとは限らないが、少なくとも世界に一人はそれをおもしろいと思う人間がいることぐらいは証明されたといってもいいと思う」。

「ハルキ度チェックシート」は特におもしろい

 

ハルキ度チェックシート

前項でも紹介した「ハルキ度チェックシート」は、特に注目の内容となっています。下記のような、全11のチェック項目でハルキっぽさが復習できる内容で、村上春樹氏の本を読んだことがある人であれば、思わずニヤリとしてしまう、笑いのツボをうまく突いたチェックシートなのです。

「ハルキ度チェックシート」の項目

  • 登場人物には、話すと長くなる由来がありますか?
  • スパゲティはアルデンテに茹でられましたか?など

著者が語る「ハルキになる3つの方法」

ここまで、「ハルキになる3つの方法」の魅力をご紹介してきました。それでは、この同人誌は、どのようにして生まれたのでしょうか?著者であるもひもひさんに、「ハルキになる3つの方法」の制作秘話と、もひもひさんの同人誌活動について話を伺いました。

制作動機は「コミケに出るため」

「ハルキになる3つの方法」は、もひもひさんにとって初めて本格的に作る同人誌でした。それまで、アニメ好きであるもひもひさんは、毎年、夏と冬に開かれる同人誌即売会「コミックマーケット」(通称「コミケ」)に通っていましたが、いつしか自分も同人誌を作る側(サークル)になってコミケに参加したいと考えるようになります。

そこで、まずは自動車マニアの友人に執筆してもらった自動車評論本を、コミケで頒布しました。憧れのコミケサークル参加を果たしたもひもひさんでしたが、この時は売り子として参加しただけだったので、次は自分で書いた同人誌でコミケに参加したいと思うようになります。しかし、当時のもひもひさんには、特に書きたいことも、伝えたい思いもなかったといいます。

村上春樹にたどり着く

村上春樹氏といえば、熱狂的なファン「ハルキスト」がいることでも有名です。しかし、もひもひさんはハルキストではないといいます。では、どのようにして村上春樹にたどり着いたのでしょうか。

「私はハルキストではありません。かといって、アンチでもない。普通に村上春樹氏の本を読みます。せっかく同人誌を作るなら多くの人に注目されるものにしたいと考え、まずは、いろいろなテーマを考えました。その中から、次のコミケでも引き続き頒布することも念頭に置いて、オワコン感が出ないように、幅広い層から人気があり、いつまでも時代遅れにならないことはないかと探してみたところ、『村上春樹氏風の文章の書き方』に注目するハウツー路線のネタが浮かびました」

修正に次ぐ修正

半端な内容ではハルキストに失礼になる。だからこそ、もひもひさんは一切妥協せず、内容をブラッシュアップしていきました。もひもひさんは、当時を振り返り、こう語りました。

「友人のハルキストに頼んで、何度も指摘をしてもらって、修正に修正を重ねました。村上春樹氏風の文章というネタは、世の中にありふれています。それこそ、インターネット掲示板の黎明期からある定番です。それとどう差別化し、独自色を出すかには悩みましたし、相当こだわりました。そこから生まれたのが「紅白饅頭法」などのハルキっぽい比喩表現や「視点」と書いていたところを「パースペクティヴ」にするといった言葉のチョイスです」

こうして、本文中の文章表現も村上春樹氏風の文体にに寄せるなど、ハルキストが読んでもうなる内容まで突き詰めた結果、「ハルキになる3つの方法」は、同人誌の世界で注目を集めたのです。

同人誌ならではの喜び

ほぼ無名な著者が制作した「ハルキになる3つの方法」は、多くの人の手に取られ、同人作家を集めたトークイベントでも取り上げられるほど、人気の同人誌になっていきます。

「初めて頒布したコミケでは、ちょっとしか売れませんでした。でも、私の本を手にした人がTwitterに投稿して、それを見た人から私にDMが相次いで来ました。自分がおもしろいと思ったことを、同じようにおもしろいと感じてくれる人と出会うのはとてもうれしかったです」

もひもひさんがこう話すように、同人誌活動は制作だけが楽しみではありません。著者の直売が大半の同人誌即売会は、同人誌を通して、同じような趣味や感性を持った人と出会える場になっているのです。

また、活動歴が長くなり人気が出てくると、固定客やファンがつくことも珍しくありません。

「最近は、同人誌即売会で私の出した新刊を立ち読みもせずに買ってくれる人がいるとうれしいですね。これまでに作った本の内容を評価して、信頼した上で定期購読者になってくれてるってことですから」。

もひもひさんは、幸せそうに話しました。

まとめ:自分のおもしろいを形に。そして、その共感は喜びに

何かに対する情熱や思いの丈をストレートに表現できるのが、同人誌活動の楽しさです。しかし、どのように伝えれば自分の思いが読者の心に届くのか。もひもひさんは、その読者目線にこだわり、人気を呼ぶ作品を作り上げました。同人誌は、表現手段であると同時に、読者と著者をつなぐコミュニケーションツールともいえます。「ハルキになる3つの方法」のように、自宅のプリンターで印刷した紙を2つ折りにしてステープラーで止めた物なら、ネタさえあれば誰でも手軽に作ることができます。自分のおもしろいを共感できる仲間に出会える、それが同人誌の魅力ではないでしょうか。

編集部コメント

自分のおもしろいを共感してくれる人に出会える喜びを得るため、毎年、同人誌即売会に人が集まります。同人活動初心者の人は、まずは、その喜びを味わうために、読者として即売会に足を運んでみてはいかがでしょうか。著者として参加したいという人は、今回、お話を伺ったもひもひさんのような考え方をまねして、アイデアを探してみるのも良いかもしれません。

当サイトでは「はじめての同人誌づくり」を紹介した記事もあります。ぜひ参考にしてください。



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