版元ひとりインタビュー はじめての同人誌づくりから即売会を主催するまで

同人作家インタビュー「版元ひとり」:同人誌は「自分の好きなこと」を書けばいい。それを好きな人は必ずいる?

同人作家インタビュー「版元ひとり」:同人誌は「自分の好きなこと」を書けばいい。それを好きな人は必ずいる?

 

 

「同人誌活動」と聞くと、どういうものを想像するだろうか。漫画やアニメ、コスプレといったものを思い浮かべる人が多いが、実はそれだけではない。小説、評論、情報系と、実にさまざまなものがある。

今回、お話を聞かせていただいた同人サークル「版元ひとり」は、「このタルタルソースがすごい!」「この麻婆豆腐がすごい!」など、独特な切り口で多くのグルメ系の同人誌などを生み出しており、テレビでも紹介されるほどだ。また、最近では、同人誌即売会を企画運営もしている。

そうしたアイディアはどう生まれているのか。そもそも同人誌を作るきっかけは何だったのか。同人活動の楽しさとは何なのか。中心メンバーである臼井総理氏と竹田あきら氏に話を聞いた。

半信半疑で始めた同人誌活動

――まずは、版元ひとりについて教えてください。

臼井 2011年の秋ぐらいに、同人誌を作っている友人に「あなたの知識は間違いなく多くの人に読んでもらえるはず!」と言われたことがきっかけです。仕事ではライティングも編集もやっていたので、あまり興味はなかったのですが、同人誌づくりならば版元(出版社のこと)になれると思ったんです。「イラストやマンガでなくても同人誌なのか?」と半信半疑でしたが、知り合いのライター2人に声をかけ、いっしょにネタを考えて2冊作ってみました。刷り部数はいずれも30~50冊くらいです。最初は、小説や評論が中心の「文学フリマ」というイベントに参加しました。コミケに出展したのは翌年(2012年)からですね。

「版元ひとり」の臼井総理氏。実際の仕事も編集・ライター業を行っている。

「版元ひとり」の臼井総理氏。実際の仕事も編集・ライター業を行っている。

――竹田さんはいつから版元ひとりに参加を?

竹田 2012年の夏です。最初、臼井総理に文学フリマに連れて行ってもらって、ものすごく衝撃を受けました。私はインディーズ音楽が大好きなのですが、「その精神が本の世界にもあるんだ!」と感動しました。「すぐに自分もやってみたい!」と思い、参加することにしたんです。

臼井 編集としても書き手が欲しかったところだったので、竹田さんにはいろいろ助けていただきました。

竹田あきら氏の「版元ひとり」加入によって、現在も続く「食べ比べ本」シリーズが生まれた。

竹田あきら氏の「版元ひとり」加入によって、現在も続く「食べ比べ本」シリーズが生まれた。

「知っているようで知られていない食材」を題材に

臼井 竹田さんとの打ち合わせでは、「どうせ作るなら、もっとたくさんの人に読まれる本にしよう」という話で意見が一致しました。

竹田 売れる本を作るなら、やっぱり定番でいこう、ということで「食べ物」を題材にすることになったんですが、「ラーメン」や「カレー」の情報はもう世間にあふれていますよね。もっと自分たちでしかできない物、それでいてみんなが知っている食材はないか……と、2人でスーパーを見て回りまして。

臼井 そこで行き着いたのが、タルタルソースでした。

竹田 スーパーに行くと、キユーピーのタルタルソースしか置いてないんです。ネット検索で何種類か見つけたのですが、スーパーにはほかのメーカーの物がまったくないんです。そこで「キユーピーのしか棚に並んでない時点で不自然じゃないか?」と、引っ掛かったんですよ。

結局、タルタルソースを8種類ほど見つけることができて、「白身魚のフライ」で食べ比べることにしたんです。この「同時に食べ比べる」ことが大事で、以降、私たちの食べ比べ本での定番になりました。

臼井 一つひとつはどのタルタルソースもおいしいんです。8種類同時に食べて比べてみないと、その違いに気が付きにくいんですよ。

竹田 こうして作った「このタルタルソースがすごい!」は、多くの人に買っていただきました。コミケに出展したらあっという間に売り切れてしまって。50部がパッとなくなるのは初めての経験だったので、すごくうれしかったですね。

臼井 この本は2013年にテレビ番組「タモリ倶楽部」で扱っていただき、貴重な経験をさせてもらいました。

「版元ひとり」の同人誌は最初モノクロだったが、食べ比べシリーズは途中からオールカラーになった。

「版元ひとり」の同人誌は最初モノクロだったが、食べ比べシリーズは途中からオールカラーになった。

――シリーズが進んでいった結果、キユーピーさんに取材もしたんですね?

臼井 はい。3冊目となる「このタルタルソースがすごい!THE MOVIE」のときの話ですね。最初はすごく怪訝そうな顔をされていたのですが、僕らがいかにタルタルソースに対して熱意を持って調べてきたかを説明したら、すごく詳しく教えていただいて。だから「自分たちは素人だから取材とか無理」などと思わないで、必要なときはぜひ企業に連絡をとってみてください。最近はSNSで発言がバズる時代だから、広報の方も意識していて、ほとんどの企業さんは話を聞いてくれますから。「このタルタルソースがすごい!」以降、食べ比べ本は、版元ひとりの定番企画として、麻婆豆腐やマーガリンなど、シリーズを重ねています。

もっと一般の人に知ってほしくて即売会を主催

――版元ひとり主催で2016年から開催している「おもしろ同人誌バザール」は、どういった経緯で始めたものなのでしょうか。

臼井 僕らは、より多くの人に自分たちの同人誌を知ってほしいし、読んでほしいんです。作った本は文学フリマやコミケで売っていましたが、結局のところその界隈の人しか来ないイベントなわけですよ。もちろん、そういうイベントだからこそ熱量の大きい人たちが買ってくれているのも確かです。でも、もっと幅広い層がいるところでも売ってみたいという気持ちがずっとありました。そんな、一般の人がフラリと立ち寄れる、僕らが理想とする即売会がないのであれば、自分たちで作るしかないなって。

竹田 「一般の方が多く通る街でやろう!」ということで、池袋のP’PARCO地下にあるニコニコ本社のイベントスペースや、JR有楽町駅前の東京交通会館など、場所を慎重に選んで開催しています。同人誌の世界をまったく知らないような人が、ふらっと一人でも入ってくれたら成功だな、という気持ちで始めました。

臼井 JR大崎駅の駅前で開催したときは、改札口から徒歩5秒ですよ(笑)。これほど一般の方が通りかかる場所はないですし、会場に来てくださったお客さんからも、出展者からも反響は大きかったですね。

大崎の駅前で開催したきっかけは、「大崎でもやってほしい」というラブコールを受けたから。

大崎の駅前で開催したきっかけは、「大崎でもやってほしい」というラブコールを受けたから。

同人誌の醍醐味は同志に出会えること

――同人誌活動は、どんなときに楽しかったりうれしかったりするものでしょうか?

竹田 お客様から「前回の本はおもしろかった。今度は何を出したんですか? すごく楽しみです!」と言われると、すごくうれしいですよね。

臼井 行列ができたのを見たときは、泣きそうになりました。泣きそうになる一方で、「うちのところに、こんなに並んでて大丈夫か!?」って思ったり(笑)。一度、通りすぎた人が戻ってきて「めちゃめちゃ気になってたんです!」と言ってくださったり、イベント終了時間ギリギリに「良かった! まだあった!」と慌てて駆け込んできたり、「前回のイベントで持ち合わせがなくて買えなくて」とうれしそうに手に取ってくれたりと、うれしいことだらけですね。ネットの活動だけでは、こういう経験はできないでしょう。

竹田 マーケティングも考えて作った本がちゃんと当たって、お客さんに「この本、欲しかったんです!」と言って買ってもらえる。自分が考えたことが全部返ってくるんですよ。何万部、何百万部なんていう大手出版社ほどの部数なんて無理ですけど、一人で出版社のすべてを味わえるというのは快感だと思います。

竹田氏は「作った本を直接お客さんに届けられる、というのは即売会ならでは」と語る。

竹田氏は「作った本を直接お客さんに届けられる、というのは即売会ならでは」と語る。

――「自分たちも同人誌活動してみよう!」と思ったら、どうしたらいいでしょう?

竹田 こういう世界にちょっと興味はあるけど、足を踏み入れるまではなっていう人は大勢いると思います。そういう人はぜひ、おもしろ同人誌バザールに来場してほしいですね。会場まで来て僕らに相談してくれれば、フルサポートしますよ!

臼井 「何を書いたらいいかわからない」という方もいるかと思いますが、あなたの好きな思いを書けばいいんです。そのあなたの「好き」に興味がある人が、実は大勢いるんですよ。それで、同じような趣味の人が買ってくれて、会場で知り合うことができたら、すごく素敵じゃないですか。

竹田 手書きでも、キヤノンのプリンターで出力したものでもいいんです。両面に印刷した紙を半分に折れば4ページの本が出来上がります。Twitterに書くようなことでいいんです。Instagramにアップする写真を足せば、もう立派な同人誌です。

臼井 以前、おもしろ同人誌バザールに出展したサークルの方から聞いたのですが、通りがかったお客さんに「僕もこういうジャンルに興味があるんです」と声をかけてもらったそうなんです。結局、その本は売れなかったそうなんですが、声をかけてもらったことがすごくうれしかった……と。自分くらいしか興味のないジャンルだと思っていたら、ほかにも愛好家がいるとわかって、たまらなく感動したというんです。

同じ趣味を持った人と出会えることのうれしさを語る臼井総理氏。

同じ趣味を持った人と出会えることのうれしさを語る臼井総理氏。

――自分では普通だと思っていたことが、他人にはすごく興味のある題材だったりもしますしね。

竹田 そのとおりです。歴史書を読むと、その当時、当たり前だったものは記録に残っていないんです。でも、歴史学的には、当時の当たり前が一番重要で知りたい部分なんですよ。トイレはどうしていたんだろうとか、食事の内容とか、これらは当たり前のことなんですよね。だから、あまり残っていない。なので、ぜひあなたにとって当たり前のこと、好きなことを綴った同人誌を作ってください。100年後の歴史学者は、それを大喜びで読むと思いますよ。

同人誌制作は「一生の趣味」になる

――なるほど! 記録として残す重要性は感じますね。では最後に、これから同人誌を作ってみたいなと思っている人たちにメッセージを。

竹田 「あなたが好きなことの情報は、意外と求められていますよ」ということを、改めて伝えておきたいですね。広い世界に出て行けば、同じ趣味の方に必ず出会うことができますから。ぜひ同人誌の世界に入ってきてほしいです。

臼井 一生の趣味になるものだと思うんですよ。同人誌って、ほかの趣味をやりながらでも続けられるじゃないですか。ゴルフが好きになったらゴルフの本を、熱帯魚が趣味になったら熱帯魚の本を作ればいいんです。若い方からお年寄りまで、誰でもできることだと思います。気軽に始められますから。何か聞きたいことがあったら、ぜひうちのイベントに来て質問してください。何でもお答えしますので。

――本日は、ありがとうございました。

まとめ:熱い二人に感化され……!?

というわけで同人作家「版元ひとり」のお二人に話を聞いたのだが、とにかく熱量が大きかった。何でもすぐSNSで発言できる今だからこそ、アナログの「本」という形で残しておく必要性があると熱く力説され、気が付けばインタビューしている側も「自分が作るとしたらアレとコレと……」などと考えてしまうほどだ。

これを読んで少しでも興味を持ったなら、まずは即売会に顔を出して何冊か買って読んでみてはいかがだろうか。実際に作ってみるかどうかはそれからでも遅くはないはず。もしかしたら即売会で自分と同じ趣味を持った人との運命の出会いがあるかも?

編集部コメント

今回のインタビューで、どのような趣味嗜好にも一定のニーズがあり、同人誌を作ることが「一生の趣味」になるかもしれないという、同人誌づくりの魅力的な一面を知ることができました。

「同人誌を作ってみたいけど、どのようにしたら作れるのか?」と思った方は、同人誌制作のドキュメンタリー記事「1ヶ月で作れた! はじめての同人誌づくり」をご覧ください。

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